Plateumaris constricticollis (Jacoby) 

オオミズクサハムシ(オオネクイハムシ)

Donacia constricticollis Jacoby (1885: 192)(原記載).
Plateumaris constricticollis: Jacobson (1892: 434), Jacoby and Clavareau (1904: 11), Chujo (1934: 535), Kimoto (1961: 160; 1983: 14), Jolivet (1970: 52), Borowiec (1984: 451), 野尻湖昆虫グループ(1985: 7),Askevold (1991: 44), 木元・滝沢 (1994: 102).
基準産地.“Lake at Junsai, Japan”. Jacoby (1885) による模式標本の記録は,G. Lewisが1880年2月〜1881年9月に北海道で採集した標本であるとされる(Chujo, 1934).
模式標本.ホロタイプがロンドン自然史博物館(The Natural History Museum, London)に収蔵されている.
表徴.体サイズはかなり変異がある.前胸背板は背面側にやや丸く隆起し,背面は粗大な点刻があるが,部分的に平滑部もある.附属肢は2色または赤褐色.♂交尾器背片の基部は幅が広いが先端に向かって狭まる.先端部は丸まるか,切れ込みがある.背片の背面側に隆起部はない.♂交尾器骨片(内袋)の側包板は長く,外側には鋸歯状の突起はなく,中央突起の長さは側包板の半分程度で,その先端は丸い.産卵管の長さは中程度または伸張し,先端部に鋸歯があり,先端の角度は直角または鋭角で,先端は突出する.
比較.本種,とりわけ亜種のエゾオオミズクサハムシ(基亜種)とシナノオオミズクサハムシは北米産のP. rufaに酷似しているが,♂交尾器骨片の形状が異なる.アキミズクサハムシも本種に似ているが,アキミズクサハムシは小型であること,前胸背板の背面が顕著に丸く盛り上がること,♂交尾器背片の背面に隆起部があること,産卵管先端の角度が120度ほどあることで,オオミズクサハムシと区別される.
分布.日本固有:北海道,本州,南千島(国後島).
地理的変異:日本各地の本種は,体長,色彩(背面,附属肢,腹節),前胸背板の点刻,産卵管,♂交尾器の形状に著しい変異がみられる.Chujo(1959)は新潟県下田村から亜種babaiを記載した.基亜種との区別点は明確に述べられなかったが,非常に大型で附属肢に暗色部がある点に注目したものと考えられる.Medevedev (1978)は国後島産を亜種kurilensisとして記載したが,北海道産の個体との区別点は不明である.Tominaga and Kastura (1984)は北海道・本州産の本種を4亜種に区分することを提唱し,基亜種とbabaiの他に,富山県産の個体群を亜種toyamensis,中国地方産の個体群をchugokuensisとして記載した.Tominaga and Kastura (1984)は,本種の地理的変異を広域的に扱った初めての報告であるが,各亜種の区別点となる部位の変異について十分に触れられていないなどの問題点がある.東日本の亜種群(基亜種・babai)と西日本の亜種群(toyamensischugokuensis)は,産卵管の形態により明確に区別可能である.基亜種とbabaiは体色が大きく異なるため,その差異は明瞭である.しかし,toyamensischugokuensisは識別点とされる♂交尾器の背片や骨片の形態に変異があるため,明確な区別は困難である.長谷川・吉富(1998)は,愛知県津具村面ノ木峠から本種を発見し,北海道・本州産の標本と比較した結果,体サイズ的にはtoyamensischugokuensisの中間に位置し,両者との形態の違いはわずかであるとした.このように,本種の亜種区分は区別点とされる形質の不安定さにより困難を伴うが,筆者は産卵管形態と体色を重視し,以下の亜種区分を採用する.


Plateumaris constricticollis constricticollis (Jacoby)
エゾオオミズクサハムシ(基亜種)

標徴.前胸背板は銅色で光沢を帯び,上翅は黒紫色で,色彩が異なる.附属肢は全体に黄褐色.触角先端の5,6節はやや暗色.産卵管は長く伸張し,先端部に粗い鋸歯があり,先端の角度は鋭角で,先端は鋭く突出する.
記載.体長:♂7.4-9.8 mm,♀8.6-11.0 mm.
 背面の色彩:ほとんどの個体の前胸背板は銅色で光沢を帯び,上翅は黒紫色.しかし,全体に緑色や銅色を帯びる個体もいる.
 頭部:複眼は小さく,複眼周囲の溝は不明瞭.頭頂は毛があり,中央部の縦溝は深い.
 触角:各節は全体に黄褐色だが先端の5,6節はやや暗色.第5節は第6節より長く,第6,4節はほぼ同長.第4節は第3節より長く,第3節は第2節より長い.
 前胸背板:全体に丸みを帯びる.前側面の隆起があり,その周囲の溝は浅い.背面は疎らに点刻され,前方はいくぶんシワ状.亜基部襟帯は明瞭で疎らな横シワと点刻を伴う.中央縦溝は浅く連続するか,途切れ,まれに欠く.
 上翅:間室の横シワは疎らで光沢が強いが,まれに密な細点刻がある.翅端は丸い.
 肢:各肢は全体に黄褐色だが,部分的に暗色.前脛節と中脛節の先端外側は明瞭に突出し,後脛節の先端外側は小さく突出する.後腿節は太く,大きな歯がある.
 尾節板:尾節板はたいてい全体に赤褐色だが,一部暗色になる個体がいる.雌では基部が著しく広まる.先端に毛があり,先端は雄では切断状で,いくぶん丸まる個体もいる.雌の先端は半円形.
 産卵管:長く伸張し,先端部に粗い鋸歯があり,先端の角度は鋭角で,先端は鋭く突出する.
 腹板:腹板は全体に銅色で,末端節は一部または全体が赤褐色.末端節の先端は,雄では切断状でいくぶん丸まり,雌では鈍角に尖る.
 ♂交尾器:陰茎先端部は徐々に狭まり,先端はやや尖るが,突起はない.背片は背面部の隆起はなく,先端は深く細く切れ込むが,まれに浅く切れ込む個体もいる.骨片の側包板の先端は幅が広い.
比較.本亜種は亜種babaiに産卵管形態や前胸背板表面の点刻の状態がよく似ているが,体色が明瞭に異なり,本亜種の上翅は黒紫色で比較的安定している.
分布.日本固有:北海道,本州北部(新潟−福島県以北),南千島(国後島).
生態.成虫は6月〜7月に出現する.成虫が植物の葉や花粉を食害する例は知られていない(野尻湖昆虫グループ,1985).ヨシ湿地やミズバショウやハンノキの生える湿地に生息する.
検討標本.北海道,本州からの標本を多数検討した.国後島の標本についても検討した.

オス 背面

メス 背面

オス 腹面

メス 腹面


Plateumaris constricticollis babai Chujo
シナノオオミズクサハムシ

Plateumaris constricticollis babai Chujo (1959: 2) (原記載).
Plateumaris constricticollis babai: Chujo and Kimoto (1961: 121), Kimoto (1964: 117), Kimoto (1983: 14), Jolivet (1970: 52), Tominaga and Katsura (1984: 34), 野尻湖昆虫グループ (1985: 7).
基準産地.新潟県下田村芳ヶ平(守門岳).
模式標本.ホロタイプ(♀)が九州大学農学部に保管されている.
標徴.前胸背板と上翅は同色で,色彩が大きい.附属肢は2色で,腿節の基部は赤褐色で先端は暗色.産卵管は長く伸張し,先端部に粗い鋸歯があり,先端の角度は鋭角で,先端は鋭く突出する.
記載.体長:♂6.9-10.1 mm,♀7.6-11.9 mm.
 背面の色彩:変異が大きく,銅色,黒,赤,緑など.♀には青色の個体がいる.金属光沢がある.
 頭部:複眼は小さく,複眼周囲の溝は不明瞭.頭頂は毛があり,中央部の縦溝は深い.
 触角:各節の基部は黄褐色で,その他の部分は暗色.第5節は第6節より長く,第6,4節はほぼ同長.第4節は第3節より長く,第3節は第2節より長い.第5節は第4節よりわずかに長い.
 前胸背板:全体に丸みを帯びる.前側面の隆起があり,その周囲の溝は浅い.背面は疎らに点刻され,前方はいくぶんシワ状.亜基部襟帯は明瞭で疎らな横シワと点刻を伴う.中央縦溝は浅く連続するか,途切れ,まれに欠く.
 上翅:会合部間室は翅端の前で途切れる.間室の横シワは疎らで光沢が強いが,まれに密な細点刻がある.翅端は丸い.
 肢:腿節の基半は赤褐色で,先端は暗色.脛節は赤褐色だが,部分的に暗色になる個体もいる.前脛節と中脛節の先端外側は明瞭に突出し,後脛節の先端外側は小さく突出する.後腿節は太く,大きな歯がある.
 尾節板:尾節板はたいてい全体に赤褐色だが,一部暗色になる個体もあり,変異がある.雌では基部が著しく広まる.先端に毛があり,先端は雄では切断状で,いくぶん丸まる個体もいる.雌の先端は半円形.
 産卵管:長く伸張し,先端部に粗い鋸歯があり,先端の角度は鋭角で,先端は鋭く突出する.
 腹板:腹板は全体に銅色で,末端節は一部または全体が赤褐色.末端節の先端は,雄では切断状でいくぶん丸まり,雌では鈍角に尖る.
 ♂交尾器:陰茎先端部は徐々に狭まり,先端はやや尖るが,突起はない.背片は背面部の隆起はなく,先端は丸まるか,まれに浅く切れ込む個体もいる.骨片の側包板の先端は幅が広い.
比較.本亜種は基亜種に産卵管形態や前胸背板表面の点刻の状態がよく似ているが,体色が明瞭に異なる.
分布.日本固有:本州中央部(福島県,茨城県,栃木県,群馬県,千葉県,新潟県,長野県).福島県および新潟県北部は基亜種の分布域に入る.
生態.成虫は5月中旬〜6月に出現する.成虫が植物の葉や花粉を食害する例は知られていない(野尻湖昆虫グループ,1985).ヨシ湿地やミズバショウやハンノキの生える湿地に生息する.幼虫はスゲ属やヨシの根を食害する.
検討標本.模式地を含め,東北,関東,中部地方からの標本を多数検討した.

オス 背面

メス 背面

オス 腹面

メス 腹面


Plateumaris constricticollis toyamensis Tominaga et Katsura, 1984
トヤマオオミズクサハムシ

Plateumaris constricticollis toyamensis Tominaga et Katsura (1984: 27) (原記載).
Plateumaris constricticollis chugokuensis Tominaga et Katsura (1984: 28) (原記載).
Plateumaris constricticollis toyamensis: Fossil Insect Research Group for Nojiri-ko Excavation (1985: 7).
Plateumaris constricticollis chugokuensis: Fossil Insect Research Group for Nojiri-ko Excavation (1985: 7).
基準産地.富山県上市町つぶら池(chugokuensisの基準産地は岡山県哲西町鯉ヶ窪湿原).
模式標本.toyamensisおよびchugokuensisのホロタイプは大阪市立自然史博物館に収蔵されている.
標徴.産卵管は伸張せず,先端の角度はほぼ直角で,先端部の鋸歯は細かい.
記載.体長:♂6.6-8.7 mm,♀7.2-10.5 mm.
 背面の色彩:銅色,黒,赤,緑,青など,変異がある.前胸背板および上翅の光沢が強い.
 頭部:複眼は小さく,複眼周囲の溝は不明瞭.頭頂部は毛に覆われ,中央部の深い縦溝を持つ.
 触角:各節の基部は暗色.第5節は第6節より長く,第6節は第4節とほぼ同長.第4節は第3節より長く,第3節は第2節より長い.第5節は第4節よりわずかに長い.まれに第6節と第4節と第3節がほぼ同じ長さの個体がいる.
 前胸背板:背面は丸みを帯び,前側面の隆起があり,周囲の溝は浅い.表面の光沢は強く,粗く点刻される.前半部に横シワが多い.まれに全体にシワや点刻の多い個体がいる.亜基部襟帯は発達し,シワと点刻は疎ら.中央縦溝は変異があり,深く連続するか,途切れる.
 上翅:間室の横シワは疎らで光沢が強い.まれに細点刻が密に覆う.
 肢:腿節の基部は暗色.前脛節と中脛節の先端外側には突起があり,後脛節の先端外側には小さな突起がある.後腿節は太く,大きな歯がある.
 尾節板:全体に黄褐色.まれに先端部は暗色.先端には毛があり,雄は切断状で,まれに浅く窪む.雌は先端の形には変異があり,浅く窪むか切断状,または丸まるが,半円形にはならない.
 産卵管:先端部はほぼ直角で,先端はわずかに突出.鋸歯は細かい.
 腹板:腹板は全体に銅色で,末端節は一部または全体が赤褐色.末端節の先端は,雄では切断状またはいくぶん丸まり,雌では鈍角に尖る.
 ♂交尾器:陰茎先端部は徐々に狭まり,先端は尖るが,突起はない.背片の先端はわずかに切れ込むか,丸い.骨片の側包板の形には変異があり,広まる個体から狭まる個体までいる.
比較.産卵管の形状はキヌツヤミズクサハムシやシラハタミズクサハムシに似ており,東日本の亜種とは明瞭に異なる.♀尾節板の形状は東日本の亜種より狭い.
生態.成虫は6月に出現し,スゲ属やイグサ属に訪花する(野尻湖昆虫グループ,1985).ヨシやスゲの生える湿地に生息するが,兵庫県砥峰高原の生息地は開けた明るい湿地である.
分布.日本固有:本州(富山県,岐阜県,愛知県,兵庫県,岡山県).
検討標本.タイプシリーズを含む多数の標本を検討した.

オス 背面(岐阜県産)

メス 背面(岐阜県産)

オス 腹面(岐阜県産)

メス 腹面(岐阜県産)

オス 背面(兵庫県産)

メス 背面(兵庫県産)

オス 腹面(兵庫県産)

メス 腹面(兵庫県産)


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