Plateumaris sericea (Linnaeus, 1761) 

キヌツヤミズクサハムシ(スゲハムシ)

Leptra sericea Linnaeus (1761: 196) (原記載).
Plateumaris niponensis Nakane (1963: 18) (原記載).
Plateumaris sericea: Chujo (1934: 533), Chujo and Kimoto (1961: 122; 1966: 40), Kimoto (1964: 117;1965: 310; 1983: 15), Kimoto and Hiura (1964: 6; 1971: 2), Kimoto and Kawase (1966: 40), Kuwayama (1967: 160), 野尻湖昆虫グループ (1985: 7), 木元・滝沢 (1994:103).
基準産地.ヨーロッパ.Plateumaris niponensis Nakaneは長野県上高地産の標本に基づき記載された.
模式標本.本種のホロタイプの所在は不明.P. niponensisのホロタイプは札幌市の北海道大学農学部に保管されている.
標徴.前胸背板には横シワが発達し,中央縦溝は深く連続する.背面は金属光沢があり,色彩変異が大きい.肢は全体に金属色.後腿節の歯は大きく,幅がある.触角第3節は第2節よりわずかに長い.♂の尾節板の先端は明瞭に窪む.♂交尾器骨片の中央突起の先端は丸い.
記載.体長:♂6.5-7.4 mm,♀7.0-8.8 mm.
 背面の色彩:銅色の個体が多いが変異が大きく,黒,紫,青,緑,黄,赤などの個体がいる.青色は♂個体に出現する.
 頭部:複眼は小さく,複眼周囲の溝は不明瞭.頭頂に毛があり,中央の縦溝は深い.
 触角:触角は背面同様,全体に金属色が強い.第5節は第6節より長く,第6節は第4節とほぼ同長.第3節は,第4節より短く,第2節よりわずかに長い.第4節は第2節の約2倍の長さ.
 前胸背板:前側面の隆起は明瞭で,その周囲の溝は深い.背面は密に点刻され,粗い横シワに覆われる.亜基部襟帯は明瞭で,密な横シワと点刻を伴う.中央縦溝は深く,連続する.
 上翅:間室の横シワは粗い.翅端部はやや丸みを帯びた切断状で,外角は丸まり,内角は直角に近い.
 肢:すべての肢は金属色.前脛節の先端外側には突起があり,中脛節と後脛節の先端外側には小さな突起がある.後腿節は大きな1つの歯を持つ.
 尾節板:先端部に毛があり,♂の先端は深く窪み,♀は浅く窪む.
 産卵管:産卵管は著しく伸張しない.先端部の鋸歯は細く,先端の角度はほぼ直角.先端は少し突出する.
 腹板:毛が濃い.末端節の形状は,♂の先端は切断状で,♀は丸まる.
 ♂交尾器:陰茎先端部は直線的に狭まり,先端は尖る.背片先端部は丸い.骨片の側包板は丸みを帯び,幅が広い.中央突起は太く,側包板より短く,その先端は丸い.
変異.尾節板先端および陰茎先端部の形状にはいくぶん変異がある.
比較.日本産の本種はヨーロッパから知られているPlateumaris discolor Panzerであるという意見がある(例えば,Lays, 1989).ヨーロッパ産のPlateumaris sericea (Linnaeus) は,触角第3節が第2節より明瞭に長く,前胸背板の横シワが細かいなどの特徴があり,シラハタミズクサハムシによく似ている.また,P. discolorとされる個体は第3節が第2節よりわずかに長い程度で,前胸背板の横シワが粗く,尾節板の先端は窪み,陰茎先端部が尖るなど,日本産の本種にきわめてよく似た特徴を持っている.しかしながら,ヨーロッパ産のP. sericeaP. discolor両者の個体は明確に分けられるわけではなく,上記の特徴が中間的な個体も少なくない.Askevold (1990)は両者の骨片形態に明瞭な差異がみいだせないことを主な根拠として両者が同種であると結論づけた.筆者も形態的に両者を区別することが困難であることから,Askevold (1990)の見解に従い,Plateumaris sericea (Linnaeus)の学名を充てておく.この見解はあくまでも形態学的な検討の結論であり,分子系統学的な再検討が必要である.
 本種はシラハタミズクサハムシにきわめてよく似ているが,触角や前胸背板,尾節板を検討することにより識別は十分可能である.確実に区別するには♂交尾器骨片の中央突起先端部を検討する必要がある.キヌツヤミズクサハムシの中央突起先端部が丸まるのに対し,シラハタミズクサハムシでは窪み,その違いは明瞭である.
分布.日本(北海道,本州,九州,佐渡);南千島(択捉,国後),サハリン,カムチャッカ,アムール,ハバロフスク,プリモルスキー,朝鮮半島,中国,モンゴル,中央アジア,ヨーロッパ.
生態.成虫は5月〜7月に出現し,スゲ属やイグサ属,ガマ属,アヤメ属,ミクリ属,ミズバショウなど多様な植物に訪花する(野尻湖昆虫グループ,1985).10月頃に成虫を見かけることがあるが,単に成虫が羽化の時期を誤ったためのかは不明.中部地方以北では,あらゆるタイプの湿地,池,水路などに生息している.
系統関係.本種はシラハタミズクサハムシと姉妹種であると推定されている(Askevold, 1990).日本産の種のDNA解析からも両種は姉妹種であると推定されている(Sota and Hayashi, 2004).
検討標本.日本各地をはじめ,極東ロシア,朝鮮半島(韓国),中央アジア,ヨーロッパ産の多数の標本を検討した.

オス 背面

メス 背面

オス 腹面

メス 腹面

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