Donacia (Donaciomima) splendens Jacobson, 1894
ヒラタネクイハムシ

Donacia obscura var. splendens Jacobson (1894: 21).(原記載)
Donacia obscura splendens: Medvedev (1973: 144).
Donacia impressa: Lewis (1893:153), Chujo (1934: 531).
Donacia splendens: Hayashi (2000: 8).
Donacia obscura: Chujo and Kimoto (1960: 2), Chujo and Kimoto (1961: 121).
Donacia thalassina: Kimoto (1961: 160; 1964: 115).
Donacia hiurai: 野尻湖昆虫グループ(1985: 7), Askevold (1990b: 644), 木元・滝沢 (1994: 101).
基準産地.シベリア.
模式標本.ホロタイプの所在は不明.
表徴.背面は一般に銅色.前胸背板は粗く点刻され横シワを伴う.上翅間室は細かな横シワが密に覆う.肢は全体に金属色で,後腿節は大きな1つの歯を持つ.♂交尾器の陰茎先端はくびれがなく,先端の小突起を欠く.骨片の中央突起は太く,L字形に背面側へ曲がり,先端部にヒレ状の小突起がある.
分類史.本種はJacobson (1894)により,Donacia obscura Gyllenhalのシベリア産の変種(var. splendens)として記載された.その後,Medvedev (1973)により亜種(subsp. splendens)とされた.Hayashi (2000)は,西シベリア産の骨片の形状を検討し,本種がD. obscuraとは独立した種であることを示した.一方,日本産の本種については,D. impressaD. obscuraD. thalassinaの学名が充てられてきたが,Kimoto (1983)により新潟県産の標本の基づき新種Donacia hiuraiとして記載された.しかしながら,日本産(特に北海道)のD. hiuraiとされた個体はD. splendensと骨片も含めて一致することから,同一種とみなされる.さらに,骨片先端部の形状が北海道と本州の個体群でいくぶん異なり,前者の個体群はシベリアの個体と一致することから基亜種,本州の個体群を亜種hiuraiとみなされた(Hayashi, 2000).
比較.本種は外部形態がヨーロッパ産のD. obscuraや北アメリカ産のD. distincta LeConteに似ているが,陰茎先端部などの形態が明瞭に異なる.また,北海道大雪山系には近似種のニセヒラタネクイハムシが本種と混生しており,確実に識別するには骨片の中央突起の形状を確認する必要がある.しかし,ニセヒラタネクイハムシの多くの個体は背面が青い光沢を帯びた黒紫色であることから,識別の目安としては有用である.
分布.日本(北海道,本州);サハリン,シベリア.
生態.亜種による生態の違いは不明.成虫は5月〜7月に出現し,スゲ属の生える湿地に生息する.成虫はスゲ属の開花期に出現するため,個々の生息地での出現期間は短い.


Donacia (Donaciomima) splendens splendens Jacobson, 1894
キタヒラタネクイハムシ

記載.体長:♂7.6-8.2 mm,♀7.8-9.0 mm.
 背面の色彩:ほとんどの個体は銅色.まれに紫色の個体がいる.
 頭部:複眼は小さく,複眼周囲の溝は深い.頭頂は毛があり,隆起し,中央部の縦溝は深い.
 触角:各節は全体に銅色.第6節は第5節より短く,第4節とほぼ同長.第3節は第4節よりわずかに短く,第2節より長い.第4節は第2節の約2倍の長さ.
 前胸背板:全体に四角形でやや横長.前側面の隆起があり,周囲の溝は浅い.背面は粗く点刻され,深い横シワを伴う.中央縦溝は深い.亜基部襟帯は浅く,シワと点刻を密に伴う.
 上翅:会合部間室はシワがあり,翅端に向かって徐々に狭まる.他の間室は細かな横シワと細点刻が密に覆う.翅端は幅の狭い切断状で,外角はまるまり,内角は直角に近い.
 肢:全体に銅色.脛節の先端部外角は、前脛節は尖り、中・後脛節では角ばる。後腿節は長く、大きな1つの歯がある.
 尾節板:♂の先端は窪むか切断状,♀は丸まるかわずかに窪む.
 腹板:末端節の先端は,♂♀共に丸まり,♂ではやや切断状.♂の先端部の窪みは浅い.
 ♂交尾器:陰茎の先端部はくびれがなく,先端の小突起を欠く.背片は細長い.骨片の中央突起はL字形で背面側に曲がる.先端にはヒレ状の小突起がある.
地理的変異.骨片の中央突起の形状は,シベリア・北海道産では太くヒレ状突起が発達するのに対し,本州産ではやや細くヒレ状突起が小さい.この特徴により,本州は亜種hiuraiとして区別される.
分布.シベリア,サハリン,北海道.
検討標本.西シベリア,プリモルスキー,北海道産の標本を検討した.

オス 背面

メス 背面


Donacia (Donaciomima) splendens hiurai Kimoto, 1983
ヒウラヒラタネクイハムシ

Donacia hiurai Kimoto (1983: 11) (原記載).
Donacia splendens hiurai: Hayashi (2000: 9).
基準産地.新潟県湯之谷村銀山平.
模式標本.ホロタイプが大阪市立自然史博物館に保管されている.
標徴.前胸背板は粗く点刻され横シワを伴う.上翅間室は細かな横シワが密に覆う.肢は全体に金属色で,後腿節は大きな1つの歯を持つ.♂尾節板の先端は切断状で,♀では丸まる.♂交尾器の陰茎先端はくびれがなく,先端の小突起を欠く.骨片の中央突起は細く,L字形に背面側へ曲がり,先端部にヒレ状の小突起がある.
分布.本州(岐阜県以東).
検討標本.ホロタイプを含め,本州産の標本を多数検討した.
和名.和名のヒラタネクイハムシはDonacia hiurai Kimotoに対して使用されてきた名称であり,本亜種(subsp. hiurai)の亜種名にふさわしいと思われる.しかし,「ヒラタネクイハムシ」は一般には種名と認識されており,D. splendensの種名,D. splendens splendnsおよびD. splendens hiuraiの亜種名に混乱が生じることが予想される.林(2004)では,種名を「ヒラタネクイハムシ」,基亜種を「キタヒラタネクイハムシ」,亜種hiuraiを「ヒウラヒラタネクイハムシ」とよぶことを提案した.

オス 背面

メス 背面

オス 腹面

メス 腹面


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