モンゴルの大自然を訪ねて

2004年6月〜7月、モンゴルのウランバートル郊外で昆虫類を中心とした自然環境調査をする機会に恵まれました。今回は、モンゴルでみたこと、感じたことを紹介したいと思います。

モンゴルといえば、やはり大草原でしょう。ウランバートル市街から15分も車を走らせれば、ガイドブックに載っているあの大草原が現れます。この草原、予想より草丈が短く(10cm以下)、自然の厳しさと放牧の影響が伺えます。モンゴルの南部は砂漠、北部はシベリアからのタイガの森林地帯になり、ウランバートル周辺はこの移行地帯とも言えるかもしれません。チョウのように花がないと生息できない昆虫はこのような草原ではみられず、湿潤な谷や北斜面、あまり放牧されていない草地でみることができました。

放牧地にはバッタやキリギリスの仲間がたくさんいました。種数はよくわりませんが、個体数は相当のものです。特に地面をひょこひょこと歩く大型のキリギリス類はなかなかの迫力です。バッタ・キリギリスはいたるところでみられましたが、単調にみえる草原は微妙な環境の近い(水分条件でしょうか)で虫の種構成が変化するようでした。

今回、はじみてみた昆虫にフンコロガシがいます。おそらくスカラベの類だと思うのですが、オスとメスのペアが糞の玉を転がして、埋める様子はとても興味深かったです。

甲虫類では、緑色の綺麗なハンミョウや、やたら個体数の多いマメハンミョウ類(5,6種はいた)なども草原でみられました。地表性のカミキリムシもいました。おそらく、飛翔能力がないのでしょう。

まったく水たまりのないステップでヒキガエルの1種とサナエトンボ・アカトンボの1種をみたのは驚きでした。今回の滞在中、当地では考えられないほど雨が降ったのが影響しているのかもしれません。今回の旅行ではさすがにカエルはみられないと思っていただけに、嬉しかったです。私がみつけた個体はジネズミの巣穴に逃げ込んでしまいました。

やはり、虫が多いのは、湿潤な谷沿いです。オキナグサ類など草原に生える草本類の宝庫でした。色とりどりの花にはヒョウモンモドキ類をはじめ、多数のチョウが群れすごかったです。花にはハナアブやハナバチ、ハナノミ、ハナムグリ、ハナカミキリなど虫だらけです。ヤナギなどの低木にはテントウムシのような模様をした大小のツツハムシがいました。もちろん、テントウムシも多かったです。

外国人がよく訪れるという観光地のテレルジでは、水生昆虫も採集しました。湿地のスゲでネクイハムシを3種、水たまりや小川でマメゲンゴロウ類やクロヒメゲンゴロウ類、ガムシ類、アメンボ類なども採集できました。しかしなんといっても当地はウスバシロチョウ類が多く、アポロやノミオンなどを生きている姿をみてまたまた感激しました。

今回は現地で8日間を調査にあてる予定でしたが、悪天候や体調不良(食事に慣れず、お腹をこわした)などもあり、うまく行かなかった点もありました。しかし、昆虫がたいへん多いところで、チョウだけでなく、他の昆虫からみてもとても興味深いフィールドであると感じました。機会があれば、ぜひまた行ってみたいです。今度は北部の森林地帯の湿地でネクイハムシをたくさんみたいです。

なお、採集した昆虫については、モンゴル環境省の許可を得て、研究用として日本に持ち帰りました。

最後になりましたが、今回の旅行でお世話になったすべての方々に厚くお礼申しあげます。(林 成多)

ガイドブックでおなじみのモンゴル大草原の風景。中央はゲル。ウシやウマ、ヒツジ、ヤギなどの放牧がいたるところでみられる。草丈はかなり低い。車から降りると、たくさんのバッタ・キリギリスと家畜の糞がみられた。
湿潤な谷底でかつ放牧が過密に行われていない場所では、膝〜腰ほどの高さの草原ができる。とにかく花が多くて、昆虫の個体数も多い。斜面を上がると植生や昆虫相が変化する。やたらマメハンミョウがたくさんいた。

ステップ草原で出会ったヒキガエル。けっこう歩くのが速くて写真を撮るのに一苦労した。数頭がみられたが、前日までの雨の影響か?

N君がつかまえきてくれた個体を撮影。もちろん、撮影後は生息地に戻した。

大きなキリギリス。もっと大きな個体もいる。羽が退化していて、ひたすら歩く。草丈の低い草原でよくみられた。

とにかくバッタ・キリギリスは多い。

フンコロガシが糞を転がすのをはじめてみた。進行方向は左側。糞玉を埋めているペアも観察された。

この他の糞虫としては、マグソコガネ類や大型のエンマコガネ(チャバネエンマに似る)などもみられた。

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