論文タイトル

Mouth morphology of diving beetle Hyphydrus japonicus (Dytiscidae: Hydroporinae) is specialized for predation on seed shrimps

(ケシゲンゴロウ幼虫の口器形態はカイミジンコの捕食に特化している)

 

論文の概要

 二枚貝やカイミジンコなど2枚の殻を持つ生物は、硬い殻によって外敵から身を守ります。そのため、特に二枚貝の捕食者は、殻を割る・穴を空ける・こじ開けるなどの物理的な方法で殻や筋肉を破壊し、中身を食べます。もし、力業に頼ることなく中身を食べることができれば、破壊に使うコストを大幅に節約することができます。

 

 ゲンゴロウ科のケシゲンゴロウ亜科に分類されるゲンゴロウは、ほとんどが小型で、幼虫の頭部中央に突起があることが特徴です。日本にも生息するケシゲンゴロウ属は細長い突起を持つことが特徴で、上下に動く大アゴと頭部の突起で獲物を挟むことが知られていました。筆者らは、日本に生息するケシゲンゴロウがカイミジンコを捕食することを発見し、この突起を含む口器形態が、カイミジンコを効率良く捕獲できることを室内実験により確認しました。

 

 室内実験では、一般的に知られる左右に動く大アゴを持ったゲンゴロウ科やガムシ科などの幼虫と、ケシゲンゴロウとでカイミジンコに対する捕獲効率を比較しました。この実験では、左右に動く大アゴを持つ種は、カイミジンコを挟むことが困難で、偶然に大アゴがカイミジンコの殻の間に入った時だけ捕食することができました。その一方、ケシゲンゴロウの幼虫はカイミジンコを容易に捕獲し、殻を破壊することなく消化・吸収をしました。

 

 カイミジンコ幼虫の頭部の突起がカイミジンコを捕食するのに特化した形態形質であることを裏付けるため、突起を外科的に除去または除去していないカイミジンコの幼虫で、捕食率の比較も行いました。その結果、突起を除去した幼虫は、除去しない幼虫に比べてカイミジンコを捕獲することが困難になりました。突起先端にある感覚器が無くなったことにより、上手くカイミジンコに対して反応できなくなったためだと考えられます。

 ゲンゴロウ科は4000種以上を含み、水生甲虫(水面や水中に生息する甲虫類)の中で最大のグループです。幼虫頭部に突起を持つケシゲンゴロウ亜科は、その51%の種数を占めています。今回の研究結果は、一部の種について明らかにしただけではありますが、ケシゲンゴロウ亜科の多様性の高さの理由を解明する手がかりになりそうです。つまり、幼虫の頭部の突起がカイミジンコの捕食に有利に働いた結果、他の水生昆虫が餌としてあまり利用していないカイミジンコを食べられるようになることによって、新たな生態的ニッチを獲得し、種数を増やす要因になったのかもしれません。本研究の成果は、ゲンゴロウ科の多様化を解明する上で、大きな影響を与えることが期待されます。

 

 


本研究の成果はイギリスの進化生物学の専門誌『Biological Journal of the Linnean Society』にて2018年8月14日に公開されました。

https://doi.org/10.1093/biolinnean/bly113

Masakazu Hayashi and Shin-ya Ohba (2018) Mouth morphology of diving beetle Hyphydrus japonicus (Dytiscidae: Hydroporinae) is specialized for predation on seed shrimps. Biological Journal of the Linnean Society (Early View)

著者: 林 成多(公益財団法人ホシザキグリーン財団・研究員)・大庭伸也(長崎大学教育学部・准教授)


【補足情報】

和名:ケシゲンゴロウ

学名:Hyphydrus japonicus Sharp

分類:コウチュウ目 ゲンゴロウ科 ケシゲンゴロウ亜科

体長:約4-5 mm(成虫)

分布:日本全国;朝鮮半島、中国

その他:現在、環境省のレッドデータブックにおいて準絶滅危惧種に指定されています。
20年ほど前までは全国で普通に見られる種でしたが、現在は急激に減少しています。


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