Web版 ヒラタドロムシ幼虫図鑑

−本州に生息するヒラタドロムシ11種の解説−

 ヒラタドロムシは主として河川に生息する水生甲虫の仲間です。幼虫は水中で藻類や流木などを食べています。幼虫は円盤型のものと、やや長くて体の横に突起をもつものがいます。円盤形の幼虫は川底の石にくっついていることが多く、見る機会が多いと思います。成虫は半水生のものと、陸生のものがいます。陸生の成虫は、水辺の草にとまっていることが多いです。

 このページでは本州(四国や九州を含む)に生息するヒラタドロムシ科11種について簡単に紹介しました。幼虫については、11種のうちの9種の種名がわかります。これまでヒラタドロムシは、ほかの川虫に比べてあまり注目されていないように思いますが、ぜひこのページを参考に近所の川を調べてみてはいかがでしょうか。ヒラタドロムシの幼虫は、どちらかというと水質指標として見られることが多いように思います。しかし、形態や生態もすごく面白いので、その面についてもぜひ注目してみてください。

 なお、このサイトの内容は下記の論文を基に作成しています。画像等を作成者に無断で利用することはできません。

 文献:林 成多(2007)島根県産水生甲虫の分布と生態.ホシザキグリーン財団研究報告, (10): 77-113.(PDF: 5.1MB).


1.幼虫のみわけかた

 幼虫は円形のものと、長くて体の横に突起をもつものがいます。ヒラタドロムシの幼虫としては、円いものの方がなじみがあると思います。

*スケールはすべて1mm(幼虫は成長で大きさが変化するので注意)

1-1.円い幼虫のみわけかた(6種)

 まず、尾の形が四角い5種と、三角形の1種がいます。種類が多い四角形の方を先に解説します。

 このタイプは二つに分けられます。体の横にある板(側葉片)の数に注目してみると、数が違います(上の写真)。左はヒラタドロムシ属で、ヒラタドロムシとヒメヒラタドロムシの2種がいます。右はマルヒラタドロムシ属で、マルヒラタドロムシ、クシヒゲマルヒラタドロムシ、ヒメマルヒラタドロムシの3種がいます。

 ヒラタドロムシ属の2種はエラ(腹部の下面にある、ふさ状のもの)の数が違います。ヒラタドロムシが6対、ヒメヒラタドロムシが5対です。ただこの特徴は少々見にくいかもしれません。縁の毛に注目すると、ヒラタドロムシは柔らかな感じの毛がもさもさと生えているのに対し、ヒメヒラタドロムシは毛並みがよく見えます。また、表面の模様にも違いがあります。

 マルヒラタドロムシ属はエラが4対です。まず、頭の真上にある板に注目します。

 真ん中に縦に細長いひし形の板があります。この板があるのは、マルヒラタドロムシとクシヒゲマルヒラタドロムシです。実はこの2種の区別はまだはっきりしていません。現在、研究中です。そして、ひし形の板がなければ、ヒメマルヒラタドロムシです。

 最後に尾が三角形のタイプはマスダチビヒラタドロムシの幼虫です。詳しくは下の写真を参照してください。

1-2.長い幼虫のみわけかた

 このタイプの幼虫は、ほとんどが写真との絵合わせで名前がわかると思います。尾の形に注目です。

 全体の形がよくにている種としては、尾がするどく尖っている、チビマルヒゲナガハナノミ属の2種がいます。背中に4本の太い隆起線があればチビマルヒゲナガハナノミで、2本しかなければホンシュウチビマルヒゲナガハナノミです。


2.各種の解説

(1) ヒラタドロムシMataeopsephus japonicus (Matsumura)

 もっとも大きなヒラタドロムシです。縁の毛がもさもさした感じです。エラは6対。川の中流に多い種です。成虫は7,8月ごろに現れ、灯りにたくさん飛んでくることがあります。


(2) ヒメヒラタドロムシMataeopsephus maculatus Nomura

 幼虫は渓流にすんでいます。縁の毛はきれいにそろっています。エラは5対。私はまだ成虫をみたことがありませんが、真夏に出現するようです。


(3) マルヒラタドロムシEubrianax ramicornis Kiesenwetter

 エラは4対。縦長のひし形の板が頭の真上にある。幼虫ではクシヒゲマルヒラタドロムシとの区別がよくわかっていません。この写真はマルヒタラドロムシの成虫がたくさんいる場所で採集した幼虫です。成虫は4月下旬から5月にかけて、水辺の草にとまっているのがみられます。クシヒゲマルヒラタドロムシの成虫とは、足の色などが違います。大きな川でも小さな川にもすんでいますが、上流にはいないようです。

オス(左)とメス(右)


(4) クシヒゲマルヒラタドロムシEubrianax granicollis Lewis

 ここでは成虫の写真のみを紹介します。足が黒い色をしています。すんでいる場所や成虫の現れる時期は、マルヒラタドロムシとほとんど変わりません。身近なヒラタドロムシです。


(5) ヒメマルヒラタドロムシEubirianax pellucidus Lewis

 エラは4対。縦長のひし形の板が頭の真上にありません。全体に色が薄いのも特徴のようです(写真よりも濃い色の幼虫もいます)。幼虫は渓流に生息しています。成虫は山地の渓流沿いで7月に一度だけみたことがあります。


(6) マスダチビヒラタドロムシMalacopsephenoides japonicus (Masuda)

 幼虫には三角形の尾があります。本州のヒラタドロムシの中ではもっとも色が鮮やかな幼虫です。幼虫は大きくなっても3mmほどです。成虫は5月から8月ごろまで見られますが、あまりにも小さいので、発見は難しいです(灯りに飛んできます)。触角がすごく長いです。


(7) マルヒゲナガハナノミSchinostethus brevis (Lewis)

 これから出てくる種はヒラタドロムシの仲間ですが、○○ヒゲナガハナノミという名前がついているものが多いです。これは、かつてこれらの仲間がナガハナノミ科という別のグループに分けられていたことのなごりです。いずれも幼虫が円くないのが特徴です。

 体の横の突起は、細く弓なりに曲がっているのが特徴です。幼虫は滝のまわりの岩壁にはり付いているので、なかなか見つけられません。


(8) ヒゲナガヒラタドロムシNipponeubria yoshitomii Lee et M. Sato

 とても小さなヒラタドロムシです。 マルヒゲナガハナノミに似ていますが、突起があまり細くありません。尾が三日月型をしています。わりと最近に発見された種です。幼虫は山地の一年中、水がしみ出している場所にある落ち葉にはり付いています。これも見つけるのが難しい種です。


(9) チビヒゲナガハナノミEctopria opaca opaca (Kiesenwetter)

 川にすむ小さなヒラタドロムシです。尾が四角いのが特徴です。成虫は6月ごろに水辺の草にとまっています。目立ちませんが、身近なヒラタドロムシです。


(10) チビマルヒゲナガハナノミMacroeubria lewisi Nakane

 渓流にすむ小さなヒラタドロムシです。幼虫は流木にくっついています。背中に4本の隆起線があるのが特徴です。


(10) ホンシュウチビマルヒゲナガハナノミMacroeubria similis Lee, Yang et Sato

 湿地にすむ小さなヒラタドロムシです。幼虫は湿地の泥の中にいます。湿地にすむヒラタドロムシはとても珍しいようです。幼虫の背中には隆起線が2本しかありません(写真では見にくいです)。成虫は真夏に湿地の草にとまっています。


サンプル提供のお願い

 今後、研究を進めて日本に生息するすべてのヒラタドロムシの幼虫を解明したいと思います。そのため、現在、成虫・幼虫のアルコール漬けサンプルを集めています。特に95-99パーセントのエタノール漬けサンプルがあると、DNAも調べることもできます。産地は問いませんが、とりわけ入手しにくい南西諸島のサンプルは大歓迎です。ご協力いただければ幸いです。

連絡・送付先:

 〒691-0076 島根県出雲市園町沖の島 1659-5 ホシザキグリーン財団 林 成多 宛

 TEL 0853-63-7111; FAX 0853-63-7112; メール: hgf-haya=green-f.or.jp (=に@を入れてください)


参考文献

御勢久右衛門(1957)Eubrianax属幼虫3種について.関西自然科学, (10): 20-23.

林 成多・門脇久志(2007)鳥取県大山山麓の河川に生息する水生甲虫類.ホシザキグリーン財団研究報告, (10).印刷中.(PDF: 2.3MB)

Jeng, M., M. A. Jach, M. Sato and P.-S. Yang (2006) On the taxonomy of Psephenoidinae: revision of Afropsephenoides, and description of two new species and one new, genus (Coleoptera: Psephenidae). Insect Systematics & Evolution, 37: 105-119.

Lee, C.-F. and M. Sato (1996) Nipponeubria yoshitomii Lee and Sato, a new species in a new genus of Eubrinae from Japan, with notes on the immature stages and description of the larva of Ectopria opaca (Kiesenwitter) (Coleoptera: Psephenidae). Coleopt. Bull., 50(2): 122-134.

Lee, C.-F., P.-S., Yang and M. Sato (1997) The Easat Asian species of the genus Macroeubria Pic (Coleoptera, Psephenidae, Eubriinae). Jpn. J. Syst. Ent., 3: 129-160.

Lee, C.-F., P.-S., Yang and M. Sato (2001) Phylogenyof the genera of Eubrianacinae and description of additional members of Eubrianax (Coleoptera: Psephenidae). Ann. Ent. Soc. Amer., 94: 347-362.

Lee, C.-F., M. A. Jach and M. Sato (2003) Psephenidae: revision of Mataeopsephus Waterhouse. Water Beetles of China, 3: 481-517.

桝田忠雄(1935)どろむし科の一新種.関西昆虫学会会報, (6): 9-10, pl. 2.

佐藤正孝(1985)ヒラタドロムシ科.「原色日本甲虫図鑑II」.保育社.

佐藤正孝・吉富博之(2005)コウチュウ目(鞘翅目)Coleoptera.川合禎次・谷田一三(編)「日本産水生昆虫 科・属・種への検索」:591-658.東海大学出版会,東京.

吉富博之・佐藤正孝(2003)日本産ヒラタドロムシ科のチェックリストと覚え書き.甲虫ニュース, (142): 7-9.


作成者:林 成多(ホシザキグリーン財団)

Masakazu Hayashi (Hoshizaki Green Foundation)

作成日:2007/1/25

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