マルヒラタドロムシ Eubrianax ramicornis Kiesenwetter, 1874

Eubrianax ramicornis Kiesenwetter, 1874(原記載)
Eubrianax ramicornis:宮武(1949),Nakane (1952), Sato (1976), 佐藤(1985b), Lee et al. (1999), Lee et al. (2001),吉富・佐藤(2003),Jach et al. (2006), Hayashi and Sota (2008)

基準産地.Nagasaki, Kiushiu.

亜種.雄の触角全体が黄褐色になるf. brunneicornisが,Echigo産の標本に基づき命名され(Nakane, 1952),後に亜種のキタマルヒラタドロムシ(マルヒラタドロムシ東北亜種)E. ramicornis brunneicornisとされた(Sato, 1976).Lee et al. (1999)では,触角の色彩変異の一つとみなされ,シノニムとして処理されている.しかしながら,筆者の調査では,東北日本産のマルヒラタドロムシの雄触角の色彩は安定しており,分類学的な位置づけの問題はあるものの地域的な集団としての区別は十分可能である.

形態的特徴.
 成虫の体長は3.8-5.1mm(佐藤,1985b).背面は全体に黒色で,前胸背板の前側方が一部白くなっている.触角は黒いが,東北日本の雄個体は全体に赤みのある黄色になる.肢は黄色.雄の腹部は黒いが,雌は黄色である.雄の触角は櫛ヒゲ状で(第1,2節は短く分岐しない),各節の先端付近で分岐する.雌の触角は鋸歯状.体型でも雌雄差は明瞭で,雌は雄に比べて大型で体幅が広い.
 蛹化は終齢幼虫の背面側の脱皮殻の中で行われる.胸部と腹部の腹面側の脱皮殻は,尾部側から外に排出される.通常の甲虫類にみられる蛹と同様,体は柔らかいが,腹部第7節〜9節は硬く,節の形状は幼虫期と同じである.また,第7節の外側にはspiracular openingとよばれる穴の空いた小突起が密に分布する(65個前後).尾部の外縁には細かな毛があり,全体にトゲが多く先端が尖る.この毛の形状でクシヒゲマルヒラタドロムシと区別ができる.体色は,羽化直後はしばらく黄白色をしているが,やがて全身が黒くなるが,雌の腹部腹面は黄色のまま羽化する.雄の触角は櫛ヒゲ状で,雌雄の区別は容易である.
 幼虫の前胸背板中央部の縫合線上には菱形の小片がある.斑紋には変異があるが,不明瞭で細かな白色と暗色の斑紋に覆われる.背面には顆粒があるが,側片上は疎らで,とりわけ縁辺部は顆粒をほとんど欠いている.本種の幼虫はHayashi and Sota (2008)により記載され,クシヒゲマルヒラタドロムシの幼虫との識別点が明らかにされた.
 卵は未確認.

生態.島根県内での野外観察,および飼育観察によると,成虫は4月末から5月に出現する.幼虫は規模の小さい礫質河床の河川に生息していることが多く,流れの緩い場所に高密度で生息していることもある.泥質分の多い河床にも生息している.終齢幼虫のサイズは雌雄で大きく異なり,雌の方が大きい.終齢幼虫は3月から4月に上陸し,背面がドーム状に盛り上がった前蛹となり,幼虫の背面の殻に覆われたまま蛹化する.夏季の幼虫の体長に大きな変異はなく,卵から成虫までの期間は1年であるとみられる.
 一般にヒラタドロムシは河川などの流水域に生息するが,マルヒラタドロムシは琵琶湖の湖岸付近にも生息している.流れ込みのあるため池でも確認されることがあるが,規模の大きな湖に生息するヒラタドロムシは,国内では本種のみである.海外では,北米に分布するEubrianax edwardsii (LeConte)が湖に生息しており,その生態が報告されている(Murvosh, 1992).

分布.本州,四国,九州,隠岐(島後),五島,対馬;朝鮮.

成虫(オスとメス)

幼虫


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