クシヒゲマルヒラタドロムシ Eubrianax granicollis Lewis, 1895

Eubrianax granicollis Lewis, 1895(原記載)
Heibrianax granicollis: Lee et al. (1999)
Eubrianax granicollis:中根(1948),Nakane (1952), 中根(1963),Sat_ (1976), 佐藤(1985b), Lee et al. (2001),吉富・佐藤(2003),J_ch et al. (2006), Hayashi and Sota (2008)
Eubrianax ramicornis:中根(1948).

基準産地.Nagasaki and Subashiri.

形態的特徴.
 成虫の体長は3.8-5.6mm(佐藤,1985b).背面は全体に黒色で,前胸背板の前側方が一部白くなっている.触角や肢が黒く,色が抜けていない状態の標本であれば,マルヒラタドロムシとは容易に区別できる.また,雌では,本種の腹部が黒いのに対して,マルヒラタドロムシは黄色である.雄の触角は櫛ヒゲ状で(第1,2節は短く分岐しない),各節の先端付近で分岐するが,分枝の長さは日本産マルヒラタドロムシ属の中ではもっとも短い.雌の触角は鋸歯状.体型でも雌雄差は明瞭で,雌は雄に比べて大型で体幅が広い.
 蛹化は終齢幼虫の背面側の脱皮殻の中で行われる.胸部と腹部の腹面側の脱皮殻は,尾部側から外に排出される.通常の甲虫類にみられる蛹と同様,体は柔らかいが,腹部第7節〜9節は硬く,節の形状は幼虫期と同じである.また,第7節の外側にはspiracular openingとよばれる穴の空いた小突起が密に分布する(140個前後).尾部の外縁には細かな毛があり,二本一組の剣先状をしており,表面に微少な突起がある.この毛の形状でマルヒラタドロムシと区別ができる.体色は,羽化直後はしばらく黄白色をしているが,やがて全身が黒くなる.雄の触角は櫛ヒゲ状で,雌雄の区別は容易である.
 幼虫の前胸背板中央部の縫合線上には菱形の小片がある.斑紋には変異があるが,不明瞭で細かな白色と暗色の斑紋に覆われる.背面には側片も含めて顆粒が密に分布し,乾燥標本ではよく目立つ.初齢幼虫は成長した幼虫と同じ円形をしており,各節の形状も基本的な構造は同じであるが,縁のトゲ(刺板)は粗い鋸歯状で,成長した幼虫とは大きく異なる.本種の幼虫はHayashi and Sota (2008)により記載され,マルヒラタドロムシの幼虫との識別点が明らかにされた.
 卵は球形で直径0.25mm.幼虫の体は卵の内部で体を折り曲げた状態で形成する.

生態.島根県内での野外および飼育の観察によると,成虫は主に5月に出現し,雄は晴れた日中には活発に飛翔する.産卵は水面下のレキの裏にかためて産み付ける.幼虫はレキに付着して成長する.終齢幼虫のサイズは雌雄で大きく異なり,雌の方が大きい.終齢幼虫は3月から4月に上陸し,背面がドーム状に盛り上がった前蛹となり,幼虫の背面の殻に覆われたまま蛹化する.夏季の幼虫の体長に大きな変異はなく,卵から成虫までの期間は1年であるとみられる.中流域のレキ質河床の河川に生息する.マルヒラタドロムシが生息しない大型の河川にみられるが,中・小規模の河川で2種が混生することもある.

分布.本州,四国,九州,小豆島,隠岐(島後),佐渡.

成虫(オス)

成虫(メス)

幼虫

クシヒゲマルヒラタドロムシ(A)とマルヒラタドロムシ(B)の幼虫比較

クシヒゲの幼虫の表面には左の写真のような顆粒が多い(特に縁辺部)

スケールは0.1mm. 光学顕微鏡で撮影

注意:ケイソウが付着した個体(特に越冬個体)は表面構造がほとんどみえないことがあります.


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